テストで気になってた本

日野啓三短篇選集〈上〉

日野啓三短篇選集〈上〉

テストで「風を讃えて」の一部を読んでからというもの、この人の文章が読みたくてしかたなくて、ずっと探していた。ブログをつけていたときに、その文章が日野啓三さんのものだと教えてもらい、さっそく読んでみました。

勝手な推測だが、この人は自分のわからないことや、考えていることや、日常生活を別人に乗り移らせて、物語を書いているのではないか。とは言っても、すべて感覚は、日常的な作者自身の感性および言葉で語られている。物語の中で語っているのは様々なパーソナリティだが、そこにいるのはあくまでも著者自身。

世の中にあるいろいろな問題を、散文的に表現したのが彼の文章なのだと思う。前職が新聞記者だと知り、激しく納得した。

個人的には「七千万年の夜景」という短篇に惹かれた。警備会社を就職活動時に受けたということと、かつて付き合っていた人が警備をしていたという個人的なことも関わるが、それと関係ない視点で鋭いな、と思ったところがたくさんあった。
「世界との、本当の私とのランデヴーに出かけるように。」
という一文には、いつも感情を押し殺している人、世間に上手く迎合している人が、一人で仕事をする時などに味わう感情が的確に表れている。同じ短篇の中には、真面目すぎる仕事をする人が、実は別のことに気をとられていたりする様子など、少し滑稽な場面も描かれている。現代社会の労働形態を揶揄する一面も織り込まれているところには、筆者の文章化の力量が表れていると感じた。
「風の強い夜だった」
「風を讃えよ」に続き、情景を重視、特に風を重視している点がよくわかる。

やたらと詳しい風景描写には違和感すら覚えるほどだ。しかし、それはリアリティを呼び起こし、私の前に風景を描き出した。



たまには小説系も読んでみるもんだね。
最近本がますますつまらない。展開が予測できるから。学術論文でさえ退屈。
今後読みたい本
新編 東京圏の社会地図 1975‐90

新編 東京圏の社会地図 1975‐90